ボブ・ディランの最高傑作の1つ「ブロンド・オン・ブロンド」。その素晴らしさとノーベル賞を受賞したディランの人気の変遷をご紹介します。



ディランがノーベル賞を受賞するまで


ワシが所有するCDで一番多いのは、ボブディラン。
多作な人だからな。
ミュージシャンの本で一番多いのもディラン関連。

IMG_2345

上下巻があって、誕生から90年代直前、「オーマーシー」まで。
字が小さくて、老眼を持っていないワシには、つらい。
ディランの略歴について簡単に書いておく。
ディラン、現在74歳。
先ごろのノーベル賞の受賞で、これまで何度かあった絶頂期を、名誉名声的には突き抜けた。

これまでディラン人気は株価のように浮き沈みある。
株価は浮き沈みは、大波小波の繰り返しであるが、歴史的に観察すると、小波には小さな引き波が、大きな波には、大きな引き波がそれぞれ呼応する。大きな波(津波)の場合、高低ともにオーヴァーシュート現象を伴うことが、株価のお約束である。したがって大儲け、大損する宿命がついてまわる。高値のオーバーシュートは、日本のバブル高値、安値(暴落)は、世界的な「ブラックマンデー」や「リーマンショック」がある。
ディランの74年の相場を振り返ると、そのウネリは、大きく3回か。

〇第1波。


デビューから、大傑作「ブロンドオンブロンド」を作り上げるまでが、第1波。同作はその頂点で、ロック史上初の2枚組(レコードの話)。
これまでに、「風に吹かれて」「時代は変わる」などの各ピークポイントで絶賛を受けるも、「アナザーサイドオブボブディラン」で、酷評(引き波)を受けながら、賛否両論のフォークロック「ブリングイットオールバックホーム」を経て、問答無用の傑作「ライクアローリングストーン」でロックヒーローとなる。
このヒーロー現象の極み・最高の成果がオーバーシュート現象として、「ブロンドオンブロンド」となる。
しかも、「ブリングイットオールバックホーム」「ハイウエイ61リヴィジッテド」「ブロンドオンブロンド」は、たった2年間で3傑作をぶち上げている。ヤクなしには、コナせないハードなロックスターの極み。(フォークスターではない。)

▲引き波


高値オーバーシュート現象には、当然に暴落が待っている。
66年7月の自動車事故である。首の骨を折り、再起不能と言われる。
「ブロンドオンブロンド」の発表から、2か月後、サラ夫人との結婚の3週間後の暴落だった。

〇第2波


「地下室(ベースメントテープ)」で英気を養い、マイペースに復活。
復活後も、CBSとのイザコザ、サラ夫人との愛憎劇などの小波をこなしつつ、作品的には、「プラネットウェイブス」で全米No.1、さらに傑作「血の轍(ブラッドオンザトラックス)」を成す。その後は、大規模ツアーでアメリカ大陸をオーバーシュート現象の勢いで席巻する。これが「ローリングサンダーレヴュー」であり、後年の傑作ライブ音源となる。作品では「欲望」で2度目の頂点に立った。(ここでも、3傑作連作)

▲引き波


「山高ければ、谷深し(株式相場格言)」長期低迷の足音は聞こえつつあったのかもしれない。
サラ夫人と正式に離婚し、その後のツアーや作品は、精彩を欠く。
この低迷は、暴落はしない分、長くて深い低迷へ。株価と同様に暴落してしまうと、底打ち反転も早いが、緩やかな株価下落は、長引く特徴がある。
「底打つのはいつか?」と探るが、底が見合ない状況が続く。その後、ライブツアーメンバー、レコーディングメンバーに大物(マークノップラー、トムペティ、グレートフルデッドなど)を交えていながらも、人気の底打ちは確認できず。
相場のごとく、下がり続ける相場はない。上がり続ける相場もない。天と底は、過ぎて初めて分かるモノ。
結局、スタジオ作品では「ダウンオンザグルーブ」、ディランが自身の低迷に悩み、「グレートフルデッドの正式メンバーになってしまおうか?」と悩んだ時期(ライブ「ディラン&ザ・デッド」)が、底となった。

〇第3波


「オーマーシー」で明らかに創作意欲が向上した事を裏付ける作品を発表。評価はにわかに上がることが期待されたが、チャート的には振るわず。ただし、作品は長く高評価を得た。
不思議なモノで、株価は反転・上昇がゆるやかに始まって、その後、いったん急落がいったん入ったのち、本格的に急ピッチで上昇基調になることある。つまり、上昇過程の急落は、時に急反発を伴って、大相場となること。最近では、昨年11月9日の急落(トランプ大統領選出)から、その直後の急騰の流れ、所謂「トランプ相場、トランプラリー」でる。なんで株価上がってんの?の疑問が渦巻く中、休むことなく2か月半、上がりつつげ、そのまま現在の高止まり。

この「トランプ相場」と同じようなことがディランにも起きる。

オーマーシー以降、評価が上がりつつある中で、97年に、心臓発作を起こす。
「エルビスに会うかと思った。」と名言を残した後、「タイム・アウト・オブ・マインド」暗ーい、地味なアルバムを発表、これが・・・・まさか?何故か?ナゼか?大ヒット。さらに何が評価されたのか?グラミー賞獲得。このまま人気上昇傾向は強くなりながら継続する。
「モダンタイムズ」は、派手さはないものの、やや作風が明るくなり、全米No.1と、またまたグラミー賞。
「トゥゲザースルーライフ」は、全米初登場1位、チャート的には、全盛期以上の人気を獲得。
「テンペスト」も大絶賛、大統領自由勲章(文民の最高栄誉賞の位置)を受賞。米国における表彰制度の頂を極めた。
そして、世界的なノーベル賞を受賞したのは、ご承知のとおり。
これまた、株相場の「山高ければ、谷深し」は逆も真なりで、長期の低迷後の大相場、ここに極った。

▲問題は今後、第3波に呼応する引き波が来るか?である。

そうだ、トランプ相場の引き波も怖い。
ノーベル賞がディラン高値のオーバーシュート現象でないことを祈りたい。
ディランの健康を祈りたい。

ご参考までにRolling Stone読者が選ぶディランアルバムランキング(2012年)
10. 'John Wesley Harding'
9. 'Oh Mercy'
8. 'Time Out of Mind'
7. 'The Freewheelin' Bob Dylan'
6. 'Nashville Skyline'
5. 'Desire'
4. 'Bringing It All Back Home'
3. 'Highway 61 Revisited'
2. 'Blonde on Blonde'
1. 'Blood on the Tracks'

ディラン自身が認める傑作「ブロンド・オン・ブロンド」

さて、前置きが長くなったが、本題のネタはソコソコです。(↓)
久しぶりに「ブロンド・オン・ブロンド」を聴いたら、感動した。
上記のとおり傑作は多いが、これが一番だ!と。
すばらしい曲はアルバム毎、時代毎にある。このアルバムは、バンドの演奏とサウンドが素晴らしい。
直前の「Briging It All Back Home」「Highway 61 Revisited」と比較して楽曲はイーブンだと思うが、演奏・録音を含めたレコード芸術として、格段に「Blonde On Blonde 」が上なのだ。
この頃、プロデュースは、全てボブ・ジョンストンってことになってはいるが、「Highway 61 Revisited」のレコーディング途中から、サウンドプロデュースの実権はディラン自身に移ったと言われる。「ライクアローリングストーン」では、プロデューサーを含む周囲の反対をディランが押し切り、アルクーパーのハモンドを大きくフィーチャーしたことは、有名な話。
「Blonde On Blonde」はサウンドプロデュースの実権をディランが完全に掌握してから、最初の作品ということになる。
ディランは、マイクブルームフィールドに「Blonde On~」でもギターを弾いてほしいと思っていたが、参加を断られる。ツアーをともにしていたホークス(のちのザ・バンド)が全面バックアップすることにも難色を示す。そして、メンフィスのスタジオミュージシャンに、ロビーロバートソンを加えた布陣となる。(ホークスが全面バックアップしていたら、アルバムの風景は変わっていたろう。)全編でハツラツとはずむドラム、キラキラ硬質なエレキギター(ロビーロバートソンのテレキャス)、メローに絡むガットギター、ディラン自身の声・ハーモニカもこの頃最高だ。
ギターはディランを含めて、5名。曲によって使い分けされている。このあたりも見事。全曲まったくスキのない快演、捨て曲なし。

ディラン自身も後年、語っている。
「僕が心の中で聞いているサウンドに最も近づくことのできたのが『ブロンド・オン・ブロンド』に収録したそれぞれの歌だ。それは自由に動き回る水銀のようなサウンドだ。どんなふうに想像してもよいが、とにかく金属的で黄金に輝いている。これが僕の特別なサウンドだ。この感覚はいつも得ることができるものではない。」
(67年、事故後の再起1作目「ジョンウェスリーハーディング」のレコーディングメンバーは、「ブロンド」の縮小版布陣であるが、「ブロンド」の音には、到達していない)。
厳選して快演好例をあげるなら、「Visions Of Johanna」「I Want You」「Stuck Inside Menphis Blues Again」
「Obviously 5 Blievers」など。何気ないフレーズ、フィルが「これが絶対!」の自信をのってプレーされる。
「Visions Of Johanna」は、当時のライブではディランの弾き語りだったが、バンドバージョンを聴くと、その演奏の素晴らしさに驚く。また、同曲は米国の雑誌の1989年の読者投票「ディラン作品で好きな曲」の1位。(意外ね?)2位は、「Like A Rolling Stone」と「It's Alright Ma,I'm Only Bleeding」だった。
「Leopard-Skin Pill Box Hat」、ディランがイントロでリードギターを弾く場面はご愛敬だ。

なお、本作の音源は、世界で11通りのバージョンが流通しており、「標準」とされるモノはないらしい。
なんじゃ?そりゃ?
ワシが聴いているヴァージョンは「標準」ではない?らしい。

もう一つ買うかなぁ?

IMG_2071