(以前の記事のリライトです。)

「ナッシュビルスカイライン」の特徴と話題





ディランの意図


ディランの通算9作目、69年の作品。



ディランの伝記(「瞬間の轍」上巻)によれば、本作はディラン自身が時代を席巻したフォーク期(特に「 The Freewheelin'」、「The Times They Are a-Changin'」)ロック期(「Bringit it~」、「Highway~」、「Blonde~」)に模索した音楽性やパフォーマンスを意図的に避けて製作したアルバムとされる。伝記の著者であるポールウィリアムス(≒ディラン研究家)は数ある名作と肩を並べることはできない凡作と評している。確かに、熱心なディランファンで本作が一番好きという方は、極めて稀でしょう。ディランが自分自身から逃げようとしていた時期だそうだ。前作「John Wesley Harding」とともにディランがもっともカントリーに接近した時期なのだが、2作の製作意図は異なり、ディランによれば、「John Wesley ~」が単に書きたい曲を書き、歌いたいように自然に歌ったのに対し、本作は、これまでの自分の作詞・作曲と歌唱、演奏を意識的に避け、職業音楽家として評価されること(=多くのリスナーが喜びそうな)を目指したという。簡単に言うと、「売れ線」を目指した、とも言えそうだが、そうではなく、あれこれ考える自分とツアーに疲弊し、職業音楽家として独自性を捨てた場合に、どの程度できるのか?を模索した、そんな作品、らしい。


ジョニー・キャッシュの参加


1曲目の「北国の少女(Girl from the North Country)」(セカンド「The Freewheelin」に収録されたヒット曲を再録)をカントリーソングの大御所ジョニーキャッシュとデュエットし、話題となった。ジョニーは55年デビューで、ディランより7年早く、年齢で9歳先輩。ディランのデビュー時には、既にスター的存在となっていた。2人はともにコロンビアレコードに所属し、反逆的な立ち振る舞い、低音でやや濁声となるヴォーカルなど、共通する点もある。ディランは、ジョニーのファンであることを公言している。ジョニー参加のいきさつは、彼らの住まいがウッドストックで近所になってから、従前にまして親しくなったことによる。ジョニーは引きこもりがちなディランをファンの前に引っ張り出そうと画策し、デュエットをレコーディングすることになった。


ジャケット


レコードジャケットも当時は話題となった。収録された曲の雰囲気にあわせて、晴天の空の下で、微笑むディランの顔、しかもカメラ目線である。

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Nashville
Bill Frisell
これは、ジャケットのパロディ。
不思議な浮揚感もったジャズギタリスト。芸風は多彩で、カントリーテイスト、鋭い感性をもった前衛的なインスト、王道ジャズでホーンとの共演など、ブログ管理人には掴みどころが、いまひとつわからない。


脱線した、話をもどす。



ディランの声

発売時だけでなく後年も含めて、一番注目されたのはディランの声。それまで濁声を看板にしてきたが、本作では全編で優しく、ささやくように、澄んだ声で、特にソフトに歌っている。韻を強調したトレードマークの活舌唱法(*ブログ管理人が勝手につけた名称で、一般的にオーソライズされていません)も、ここでは聴けない。ディランはこの時の声について「タバコ控えたら、こうなったのさ」と。例によってテキトーな思い付きの回答をしただけで、おそらく作り話だ。ディランはデビュー時、すでに「だみ声」だったが、だみ声も時代よって変わっている。「Anothe Side of」~「Bringing it~」、「Highway~」までは2年に満たないが、それぞれ声のニュアンスは異なる。ディランは、「自由に声質を変えられる」などと言ったこともあり、本作の声も「それまでの自分らしさを回避」した結果なのでしょう。

収録時間


セカンド~ブロンドまで、ディランのアルバムは、ポピュラーミュージックのレコードとしては異例に長く、収録時間が50分超となる作品が多かった。ところが本作は、たった27分で、極端に短い。おそらく歴代のスタジオ作品で最短だ。各曲も2分程度の短い曲ばかり。買った当時、なんだか損をしたような気がしたものだ。





「ナッシュビルスカイライン」におけるディランの声と収録時間に関する妄想劇場



ディラン「やったー、ジョニー(キャッシュ)と共演(Duet)か?おれもビッグになったもんだぜ。」

ウキウキでリハーサルに突入。さっそくワンテイクをジョニキャッシューと一緒に聴いてみると、

ジョニー大先生「オイオイ、なんか、むさくるしいし、うっとしい感じしねぇーか?俺もオレだけど、お前もオマエだ。ちょっと、その濁声テイスト、なんとかならんか?手加減しろよ。ラブソング(北国の少女)なんだけど、怖えーゾ。」

ディラン「スマネーな、兄貴。オレ、少し軽くやさしいイメージで歌ってみましょう。ジョニーはいつもの王道でお願いします!」

ディランが猫なで声で2テイク目。

ジョニー「おお、なかなかいいやん。オレとの対比がええぞ。ボブ、流石だな!(と肩をたたく)」

ディランは、ジョニーに褒められ、すっかり気持ちよくなり、このアルバムにおいては、他の曲も「やさしい猫なで声」で通すことにした。

名曲「レイ・レディ・レイ」では、曲の中盤で声がひっくり返りそうになっていることを聞き逃してはならない。(←これは妄想ではなく、本当) これは作った声なのだ。

何曲か録音するうちに、この声は、ディランには向いておらず、本人もこれでレコーディングを続けるのは「なんか調子のらねぇなぁ」ってことで嫌になってきた。そこで、いつもは入れないインスト曲(2曲目「Nashville Skyline Rag」)も入れて、「お、なんとか30分近くなったじゃん。これでコロンビアも文句言わねーだろ。終わろーぜ。」

レコーディング終わって、ビール飲むときは、タバコ吸いながら、「う”-うめぇ。」とだみ声で唸った。

っていう顛末で、ボブディラン史上、もっとも短いアルバムが出来上がったのだ。

妄想終わり。

*なお、実際のレコーディングでは、ジョニーとのデュエットがレコーディング日程の最後の頃に録音されています。このデュエットがなかったら、発売できなかったかもしれませんね。


おわりに


先述のポールウィリアムスは、ディラン伝記で、本作について、それほど褒めていない。ジョニーキャッシュとの共演についても、さらっと触れる程度だ。ただし、最後の「Tonight I'll Be Staying Here with You」については、絶賛している。ブログ管理人も同感で、「あっ」という間に終わってしまうこの作品が、この曲で気分よく、聴き終わることができる。ディランも好きらしく、後のローリングサンダーレヴューでも演奏している。
ローリング・サンダー・レヴュー (通常盤)
このライブ名盤では1曲目に収録されていて、コンサートの冒頭曲のように扱われているが、実際は終盤に演奏されている。ライブ編集時に、その素晴らしさから、1曲目に配置されたのだろう。


この曲をジェフベックがカバーしている。

Jeff Beck Group
Jeff Group Beck

ナイスなカバーで、テンポを落としてソウルフルなアレンジ、ベックの美しいスライド。誰がやろうと言い始めたのか?ベック?意外だ。コージー?もっと意外だ。コピーを試みたが、スライド奏法と押弦プレーを混在させていて、それが難しいの。で、中断。


おしまい。