にわかファンにはわからない、この猥雑さこそ、ストーンズの魅力

72年の作品。「ベガーズバンケット」から「レット・イット・ブリード」、「スティッキーフィンガーズ」を経て、本作まで、およそ5年間が私にとっての、ストーンズのピークだ。
この頃、ディランの「ブロンドオンブロンド」を皮切りに、2枚組が流行った時期、ストーンズのオリジナルアルバムを発表した。2枚組だからこそ猥雑で深遠、ルーズでタイト(?)、アルコールやドラッグの影、そして極上のロックンロールがつまった傑作となった。アナログ4面に分かれた曲群のコントラストも素晴らしい。


アナログA面

オープニングは、ストーンズ屈指のロックンロール曲が
2曲並ぶ。
「Rocks Off」はリフ、歌メロ、ホーンアレンジすべてよし。
完璧の1曲目。なんだが、ライブではいつも出来が悪い再現不能な難しい曲でもある。
続く「Rip This Joint」は、まるでリトルリチャードが書いたような曲。ビートルズ(ポール)の「I’m Down」と並ぶ白人による最高のロックンロール。ライブでも最高。5曲目「Tumbling Dice」ミドルテンポのR&Bっぽいけど、実はこれもロックンロールっていう、ストーンズならではの楽曲。

B面

アコースティックを使った曲が並ぶ。これがアルバムの「ウリ」にもなっていて、いずれも佳曲。アコースティックのアーシーなサウンドにミックのヴォーカル、キースのコーラスが際立つ。「ブラックスィートエンジェル」などは、他のアルバムにないリラックスした雰囲気が最高。「ラヴィイングカップ」では、チャーリーの爽快なフィルにも耳を奪われる。
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(キースの遅刻などに、怒ったチャーリーは一時、現場を離れ、かわりに、プロデューサーのジミーミラーがドラム叩いている曲もある=「ダイスをころがせ」「ハッピー」「シャイン・ア・ライト」)

C面

キーズVoの初のシングル「Happy」で始まる。長年キースのヴォーカル曲として、またメンバー紹介の直後の曲としてステージでも多く演奏された。続く「Turn On The Run」「Ventirator Blues」「IJust Want To See His Face」の並びは、ストーンズがディープな黒人っぽさを狙って上手くいった好例。そして「Let It Loose」はストーンズ屈指のソウルバラード。これは女性コーラスがうまくハマった好例。(これに味をしめて、後年女性コーラスを導入して失敗した曲は多いと思う。
そういう意味でも本作は、ピークだ。)

D面

またまたロックンロールで盛り上がる。「All Down The Line」でミックテイラーのスライドギターが炸裂。
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(ただし、ミックテイラーのギタープレーは、
アルバム全体では、アンサンブルに徹している。)
名曲「Shine A Light」しっとりバラード。後半ポップなメロディをのせて盛り上げる。
ここでもギターソロ、テイラー節が聴ける。
最後は「Soul Survivor」、キースのリフと歌メロの掛け合いで、イケイケに盛り上げて、アルバムはおわる。2枚組ながら、あっという間に終わる。(CDは1枚)

おおすげぇ、4面全部解説したぜ。こんなことしているから、
ギター上手くなんねんだよなぁ。


アウトテイク

リマスター時に追加されたボーナスCD10曲のうち、5曲程度は、
十分聴く価値あるアウトテイク。
アウトテイク聴いても、この時期の充実度がわかる。
このアルバム発表後、日本公演が予定されたいたが、ドラッグ問題で中止。
当時は残念だったろーねー。
その後、ストーンズは有名なヨーロッパツアーに出て、各地で名演、
多く有名ブートレグを生んだ。めでたしめでたし




ピークを経た後のストーンズは・・・

68年から(ツアーも含めて)73年をピークとする、
特に「スティッキー~」と「メインストリート」ピークとする理由は
4点を考える。
1.音楽の独自性
2.不良文化とカリスマ性
3.各メンバーの演奏力とバンド全体のノリ
  (キースのバックコーラスもまだ声が潰れていない)
4.時代に迎合しない(曲づくり、アレンジも含めて)で、
  時代を引っ張る存在感の大きさ

こんなところが、ピーク時のポイントとなっていて、
また、この後は、この4点が劣化してしまうんですわ。

1と2は、結果論的なので、3と4が原因として特に大きかろう。

でもな、私も、この後の作品、「イッツオンリーロックンロール」「ブラック&ブルー」
「サム・ガールズ」「刺青の男」等々、よー聴いた。ファンにも人気あるし。
「ダーティーワーク」「スティールホィールズ」でさえ、当時はよく聴いたんですわ。

でもな、順に聞いてみると、あきらかに下がってるんですよ。いろいろね。
困っちゃうぐらいね。

「山羊スープ」以降は、ストーンズが世界一の人気ロックバンドとなった結果、
大物ロックバンド症候群がだんだん出てきてしまったのである。
「大物が自らを大物と自覚し、大物のまま君臨しようとする」欲望が、この症状の病原である。
この病原は上記4の「時代に迎合しない(曲づくり、アレンジも含めて)で、
時代を引っ張る存在感の大きさ。」を自覚症状なしに劣化させてしまうのである。
(断定したのである。ハハハ)
ボブディランもこの病原で、80年代を棒に振った。が、自ら病原を排除し、
90年代は覚醒し、2000年代以降、復活し、全米チャート1位、
ノベール賞までもらっちゃった。めでたしめでたし。

脱線したが、「山羊のスープ」以降は、
「スティッキーフィンガーズをもう一度」を合言葉にしながら、時代のサウンドを取り込みつつ、
チャートも睨みながらの活動になったのではないか?
テイラーが脱退した後も、テイラー期に書いた曲をつかってレコーディングしていた頃(「刺青の男」まで)は、まだ良かった。
それ以降は、顕著に格が下がった。
サウンド面では80年代(中盤?)のドラムのリヴァーブ、ギターの強い歪とエッジ、
曲作りでは、ミックジャガーのソロアルバム以降、ポップ路線をストーンズに持ち込んでしまう、大げさでドラマティックなアレンジなど、大失敗だ。
ミックジャガーのヴォーカルに、「ディレイ」のエフェクトなんぞかかると、もーCD止めそうになるぞ。

さらに、演奏面では、ビルワイマンが止め、イワン・スチュワート(死去)、ニッキーホプキンスが参加せず、めちゃくちゃ上手すぎる有名ミュージシャンが参加して個々の演奏力は上がった(?)かもしれないが、「ストーンズが、ストーンズをストーンする悪循環」である。

だいたいやね、ロンウッドはいわばツアーメンバーで、スタジオ盤はキースがほとんど主要なパートを弾いているので、ミックテイラー期に比べて、平べったくなるわなぁー。

おそらくストーンズメンバーも、病原退治のために、
原点回帰をめざしたんだろう。
それでこのブルースアルバムを制作。
Blue & Lonesome
The Rolling Stones



そして、まったく病原退治にはならなかったのである。

最後に、がんばれ、キース。君のソロアルバムは、ディランの「Tempest」と並んでるよ。君個人に病原は少ない(かも)。


おしまい。